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縄文の女神・魅力を発信 県立博物館長・高梨博実さん(S49卒) 
(2013年8月2日山形新聞より)

高梨博実さん
高梨博実 県立博物館長(S49卒)

 美しさと重厚さ併せ持つ 本物の常設展示可能に
  日本最大の土偶、国宝・縄文の女神。私が初めて彼女に会ったのは、昨年4月だった。その全体像を見て、私の体に電撃が走った。パリのルーブル美術館でミロのビーナスを見て以来の感動だった。縄文の女神は、その大きさにおいてミロのビーナスに遠く及ばないものの、美しさと重厚さにおいては決して引けを取らない。
 ミロのビーナスは大理石を用いたギリシャ彫刻で、黄金碑にのっとり計算し尽くされた美しさを持つ。一方、縄文の女神は、それより2千年ほど前に作られた土偶で、素焼きならではの深い味わいを持つ。ミロのビーナスは彫刻なので、神殿か邸宅などに美術品として置かれていたのだろう。縄文の女神は、祭りや儀式などに使われたのだろうと専門家は言う。
 縄文の女神は、その大きさと他に類を見ない造形の美しさから、考古学的価値が非常に高いと評価されている。しかし、私たち市民にとっては、学術的価値よりも、その美しさとそれが語る縄文人の心が魅力だ。私たちよりも先にそれに気付き高く評価したのは、浮世絵の場合と同じようにヨーロッパ人だった。国宝の指定前にフランス、ドイツ、イギリス(大英博物館)で開催された土偶展に出品され、絶大な評価を得ている。
 これほどまでの素晴らしさを持つ縄文の女神だが、市民への周知が十分だったかと言われると、残念ながらノーだ。国宝指定の影響でマスコミが大きく取り上げてくれるようになったが、PRはまだ不十分だ。予算のない県立博物館では、新聞広告を出すこともままならない。
 だが、本年度は一歩前進した。県の関係機関やJRなどの協力が得られるようになったからだ。博物館も動いている。最先端技術の3Dプリンターを用いた3Dも出る試作第1号(実物の3分の1)がようやく完成した。これは、博物館が4月から進めていたプロジェクトによるもので、東北芸術工科大と県産業技術短期大学校の協力を得て完成した。近いうちに実物大の3Dモデルを製作し、目の不自由な人が触れるものとしての展示や、教育・普及活動に活用したいと考えている。
 今年3月、博物館に国宝専用展示室が完成し、4月から縄文の女神の常設展示が可能となった。これにより「本物を展示したい」という私の願いがやっとかなった。写真やレプリカなどを通して知識を得ることも大切だが、本物と向き合わなければ伝わってこないものもある。それは絵画や彫刻にも言えることだが、その時代を生きた作者の「魂の叫び」だ。だからこそ、大人はもちろんのこと、子どもにも本物を見せたい。子供の感性や才能を開花させたいと思うのであれば、できるだけ多くの本物に触れさせることだと言われるからだ。
 子どもと一緒に縄文の女神を見る時には、ぜひ伝えてもらいたい。こんなに素晴らしいものをつくった祖先と、そんな祖先を持つ自分に誇りと自信を持っていいのだと。 (東根市在住)

縄文の女神 “触れます” 3Dプリンターで模型に(2013年6月22日山形新聞)
「縄文の女神」にいつでも会える・高梨博実県立博物館長(2013年4月6日山形新聞)

8月2日山形新聞